不登校と向き合うために

不登校と向き合うために

もはや社会問題化している「不登校」。国も地方公共団体もスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの設置など必死に食い止めようとしていますが、大きな改善とまでには至っていません。子どもたちが不登校になってしまう原因は千差万別で画一的な対処法では対応しきれないのが現状です。したがって各事案ごとに慎重に判断すべきですが、学校教職員の多忙さに加え、社会がいまだに“不登校=本人の気持ちの問題”と捉えている側面が根強く、抜本的に改善された支援体制が整うこと、そして対症療法ではなく、学校という居場所がそもそも不登校を生み出さない環境に変わっていくことが望まれます。

我々興学社学園は、不登校の原因として主に5つに区分して、事案ごとの具体的対応方法を日々研究実践しています。

不登校の5大原因

学校生活でのトラブル

学校は子どもたちにとって刺激の多い場所です。日々生活の中で同級生や先輩後輩、先生との関わりを上手に保っていくことが充実した学校生活に直結します。逆にいえばそれがうまくいかなかった時、トラブルに発展し不登校という選択肢を選んでしまう子どもも少なくないのです。なぜでしょうか。それはついつい大人が発してしまう不用意な指導にその一端があります。「友達をつくりなさい」、「我慢しなさい」、「頑張れ」、「仕方ないでしょう」などです。

これは子どもたちを追い詰める言葉の例です。このような指導を受けたこどもは「~しなければならない」という強迫観念にとらわれます。それが心の負担となってしまうのです。

学校や家庭で教えるべきことは友達を作ることや我慢することではありません。「自分で自分の心を守る手段とスキル」を身に付けさせることです。先述した声掛けはその目的とは相反する言葉なわけです。ですから、周囲の大人が一人ひとりの個性を理解し、適切な言葉がけをすることで、十分に不登校を予防できる環境を作ることができます。

「苦手な人がいる」、「トラブルがあった」、「不安なことがある」など、まずはこのような悩みを吐きだして良いという信頼関係を子どもと築きあげることから始まります。そのためには、会話の中で決して命令をしないこと、否定をしないことが大切です。

そして次のステップは、安心を与えるということです。例えば友達作りで悩んでいる子どもがいたらまずその思いを聴き「その気持ちを十分理解した」ということを伝えましょう。そして、「自分が負担に感じないくらい距離を置いて大丈夫だよ。」「無理に友達を作る必要はないんだよ。」と「~しなければいけない」という強迫観念を取り除いてあげましょう。それだけで子どもの心は救われ、命令などしなくても結果的に様々なトラブルや不安を乗り越える勇気を得るのです。

学業不振

学業不振も、不登校になる原因としてご相談を受ける機会が多々あります。しかしこの問題、正確に言うと学業不振に陥る原因をしっかりと見極めなくては状況を悪化させてしまうことにも繋がりかねない非常に重要な案件なのです。学業不振の原因として最も多いのが本人の努力が足らないことですが、皆さんは「努力の仕方」を教えているでしょうか。または皆さん自身が「努力の仕方」を具体的に教わったことがありますでしょうか。実は努力をするというのは非常に難しいことで、方法論の伝達や適切な動機付けをしていかなくては努力することはできないのです。ですから、学力不振で子どもを責める前に周囲の大人が適切な導きを実践できているかを今一度省みる必要があります。

もうひとつ、学力不振の原因として、本人の努力が原因でない場合があります。それが学習障害です。学習障害は発達障害の一つで、限局性学習症といったりもします。「読む・書く・聴く・話す・計算する・推論する」能力のうち、特定の能力が著しく低く、学習上の場面で困難が生じているケースを指します。いわゆる普通に皆ができていることが本人にとって著しく難しく感じている場合があるのです。こういった子どもはどんなに時間をかけて努力をしても難しいものは難しいのです。しかし、知的発達に遅れがあるわけではありませんから、どのような困難が生じているのかを正しく見極め、学習教材や教授方法に工夫を加えることで日常生活や学校生活に負担を感じることを減らすことができます。正しい見極めには、WISC-Ⅳという知能検査を活用することが有効です。何が苦手で何が得意なのかを明確にし、適切なアプローチを見出しましょう。

精神疾患

精神疾患とはなんらかの脳の働きの変化により心理的な問題が生じ、感情や行動などに著しいかたよりがみられる状態のことです。精神疾患は社会生活に困難が生じますので、当然学校生活にも困難が生じます。その結果不登校につながることも少なくありません。

精神疾患には様々な症例がありますが、いずれにせよ快復を焦ってはいけません。少しずつ少しずつできる範囲を決めて小さな達成感を積み重ねていくことが望ましい対応方法になります。したがって、画一的な仕組み、例えば学校に来ない⇒家に電話⇒それでも来ない⇒家庭訪問・・・などのようなマニュアル的なやり方では改善できない可能性があります。世の中には精神疾患による症状を和らげる薬も多く存在しています。医療機関とうまく連携したり、本人の心の状態を十分に理解し考慮してくれる環境で時間をかけて向き合っていきましょう。

発達障害

発達障害は広汎性発達障害、自閉症スペクトラム障害、学習障害、ADHD、知的障害などを複合的に併せ持ち、発達に課題のある状態をさします。ADHDや自閉傾向は他者とのコミュニケーションに困難を要する場合が少なくなく、学校生活になじめずに不登校につながることもあります。発達障害は適切な治療方法が確立されているわけではなく、今現在で目指すべきことは、社会生活を送る上で自己肯定感を下げないためのスキルを身に付けさせることです。もしも発達障害を背景として不登校になってしまった場合は、まずはじめに本人が強い劣等感を感じたり自信を失ってしまうような環境から離れることです。地域の教育センターを活用したり、適応指導教室を活用することや放課後等デイサービスも非常に有効です。そして繰り返し繰り返し本人の特性に応じたSST(ソーシャルスキルトレーニング)を施していくことが重要です。

例えば、見知らぬ場所や公共の場所で落ちついて行動するスキルや、日常生活で感じる様々な感覚を頭の中で整理する感覚統合など、具体的な対応方法はいくらでもあります。そういった療育を実施している教育機関を探すことから始めましょう。不登校をマイナスにとらえるのではなく、本人の特性に対して適切に対応してくれる場所でなければ無理に通う必要はないと割り切って考えましょう。

家庭環境

不登校と向き合うためには、家庭環境は重要な要素を占めます。どんなに優れた学校でも、教育センターでも、家庭の教育力に勝るものはありません。まず大切なことは子どもに対して「学校に行くこと」を望まないことです。本末転倒に思えるかもしれませんが、我が子が学校に行かなくなってしまったら誰しも焦って「何でいかないの?」と責め立ててしまいがちです。でも理由があるから行きたくないのです。「不登校の改善=登校すること」ではありません。不登校の改善は折れてしまった心を改善することです。結果的に再び学校に行くことができれば望ましいというだけです。まずは周囲の大人がその視点を持つことで子どもへの余計なプレッシャーを軽減し、不登校を悪化させることを防ぎます。

その心構えができたら、家庭内だけで抱え込まず、信頼できる教育機関や支援機関を探し始めましょう。焦ることはありません。まずは「環境探し」です。